製造業におけるIoT/AIプロジェクトの現実【第一回】

人材不足の現場が辿るスマート化への道しるべ

“データ民主化”がもたらした功罪

製造業においては、IoTやAIなどのテクノロジーによって現場から得られた情報を活用し、最終的には工場の自動化や無人化につなげていく“スマート化”という世界的な潮流があり、今では自社に適用すべくPoC(概念実証)に取り組む製造業が増えていることはご存じの通りだろう。しかし、現実的にはうまく実装にまで至らないケースも散見される。では、製造業において工場のスマート化を進めていくためには、AIやIoTにどう向き合い、その実装を進めていけばいいのだろうか。

 

人材不足に悩む日本の製造業

現在製造業の世界では、センシング技術としての「IoT」を活用し、あらゆるものをネットワークにつなげて形成する「ビッグデータ」、そしてビッグデータをもとに機械学習によって最適解を導き出す「AI」といったテクノロジーが注目されている。そしてこれらの技術を活用し、業務の改善はもちろん、現場の見える化を推進しながら生産プロセスの自動化や工場の無人化を図るスマートファクトリーへの取り組みが、PoCを含めて積極的に行われている。
その背景には、製造業における人手不足という社会課題が大きく横たわっている。

「製造業に限ったことではありませんが、人手不足や後継者不足が大きな課題となっています。ただし、製造現場には匠の技を持った熟練工の方が現役で活躍しており、今すぐに抜本的な対策に取り組むほどでもないと考えている企業も少なくない。これがジレンマとなって、日本の製造業では、グローバルな製造業に比べて自動化や無人化への取り組みが十分に進んでいないとも言えるのです」

と今の日本の状況について語るのは、株式会社マクニカ ソリューション事業部 戦略企画推進部 AIリサーチセンター センター長 シニアデータアナリスト 楠 貴弘だ。

2018年7月に経済産業省 製造産業局が発表した「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」においても、人手不足は94%以上の大企業・中小企業において顕在化しており、特に人材確保に課題があるのが「技能人材」だと回答した割合が突出して高いのが実態だ。

 


出典:経済産業省 「製造業における人材不足の現状及び外国人材の活用について」http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/gaikokujinzai/pdf/20180712005-2.pdf

AIプロジェクトにおける現実

それでも、まずは現場から得られた情報を見える化するべく、話題のIoTやAIに取り組みたいと相談が寄せられることも多いという。しかし、そこにも大きな課題があると説明する。

「そもそもどんなデータを取得すればいいのか、どんな手段で収集するのかといった初期の段階から悩みを抱えている企業はいまだに多いのが現実です。製造現場の多くは、いまだに紙の文化が色濃く残っているケースも多く、情報のデジタル化が十分に進んでいない場合も少なくありません。まずはデータがないと前に進むことは難しいため、きちんと情報をデジタル化して取得できる環境づくりから始める必要があるのです」。

しかも、AIなどのプロジェクトを推進するチームと、製造現場にいる職人との距離感についても課題になることがあるという。

「長年培われた現場の知見や経験は、想像以上に素晴らしいもので、なかには非正規社員の方でも高度なノウハウを持っている方がいるほど。現場にデータがない場合、その方たちと緊密にやり取りしながら機器を設置したり改造したりする必要があります。ただし、現場の方は品質の高いものを作ることが仕事であり、データ取得が必要なプロジェクト側とはベクトルが異なるため、距離感がどうしても生まれてしまいがちなのです」。

もしデータが取れた場合でも、そのデータが何を意味するのかを理解していく必要があるため、現場の協力が不可欠なものであることは間違いない。

AI実装を加速させる“データの民主化”

もちろん、現場レベルでしっかりと分析できる環境があれば、迅速な可視化が可能になるだけでなく、次のうち手につなげることも容易となる。そこで数年前から登場したのが、 “データの民主化”と呼ばれるキーワードだ。

「分析の専門家であるデータサイエンティストに頼らずとも、現場担当者で機械学習のモデルを手軽に作成し、日々の情報を分析することで改善活動に生かせる環境づくりが広がりつつあります」。

実際のプロジェクトでは、外部の力を借りるだけのコストやスケジュールが確保できないケースも少なくない。そこで現場だけでも分析していける“データの民主化”という流れが大きな潮流となりつつあると楠はその実態について説明する。

この民主化が意味するところは、プログラミングができない人でも、例えば機械学習やディープラーニングが扱える基盤を利用して専門家でなくてもAIを扱うことができるようになる、プログラミング不要でデータベースから自分の分析に必要な情報が簡単に引き出せるようになるというもの。
そのことで、設備の使い勝手や日々の運用状況、長年培った暗黙知となるノウハウを正しく理解している“現場自ら”が活動履歴を適切に引き出し、仮説検証が行えるようになる。

この民主化領域において重要になってくるのが、専門家でなくともデータ処理や分析をツール内で行い、現場に適用しやすくしてくれる仕組みの存在だ。今では、現場が持っているデータを事業者のサービス基盤に投入するだけで、機械学習モデルが手軽に生成でき、現場へのAI実装が容易となるソリューションを持っているところも登場している。

「弊社のグループ会社でもH2O.ai社製品を取り扱っています(https://www.macnica.net/h2oai/)が、これら民主化ソリューションについては、長年積み上げてきたノウハウを専門家でない人でも使えるようにしています。一朝一夕で作られたものではなく、歴史を積み重ねたうえで民主化のソリューションが提供されており、非常に使いやすくなっています」。

誰でもデータさえ投入すれば、ある程度のものが出来上がるという仕組みになっている。


これら民主化ソリューションのおかげで、多くの現場でAIの技術が活用できるチャンスがもたらされる可能性が広がったのは確かだろう。しかし、さまざまなAIに関連したプロジェクトを手掛けてきた楠だけに、ことはそう簡単ではないと指摘する。


次回は、製造業におけるIoTやAIプロジェクトにおける現状とその課題について見ていきながら、そのために必要な視点や体制づくりについて紹介していきたい。